福島県安達郡大玉村の電子部品製造会社「株式会社向山製作所」は、一見畑違いと思われる商品の開発に成功し、今、大きな注目を浴びている。昨年あたりから新種のスイーツとして巷で人気となっている生キャラメルの製造販売を、既存の電子部品の生産と並行して自社工場内で開始したからだ。
向山製作所は、織田金也社長が25歳の時に立ち上げた電子部品製造会社で、携帯電話のディスプレイパネル、自動車の室内灯などを製造する従業員83名の会社である。遡ること13年前、バブル崩壊による不景気で立ち行かなくなった織田社長は、「いざとなったら、みんなで惣菜屋をやって生き残ろう」と食品事業への参入を模索し、自ら郡山市の日本調理技術専門学校に入学。夜は郡山駅前にある大手ホテルの厨房で見習いをしながら、食品事業進出への礎を築いた。
その後は、持ち前の高い技術力がITバブルとあいまって業績を伸ばし、会社は立ち直った。7年前からは、その技術で一部上場企業の技術コンサルタントも手掛けている。しかし、織田社長は、景気の動向に大きく左右される電子部品製造だけでは不安定と考え、食品事業進出への準備を続けてきた。3年前からは、日本大学工学部のインキュベーションセンターにオフィスを構え、味覚センサーや味覚計測システムなど、味を数値化する研究を行ってきている。さらに2008年7月よりフード事業部を立ち上げ、第一弾として生キャラメルの開発をスタートした。その後、景気が低迷して本業である電子部品製造の稼働率が低下すると、織田社長は「このまま生キャラメルの開発を続けてよいものか」と悩んだこともあったという。しかし、最終的に織田社長が開発を続けることを決断したのは、「従業員の雇用をなんとしても守りたい」という強い思いがあったからだ。
生キャラメル作りに際しては、独自開発によるオリジナルレシピにこだわり、苦楽を共にしてきた従来スタッフによる手作りの工程を原則としている。特別な能力を持った人にしかできない製品では、本来の「雇用を守る」という目的を達成できないからだ。一見、全く畑違いと思われる生キャラメル生産のために必要なマンパワーや機械設備等の資源には、創業以来19年間培ってきた電子部品製造の基礎が活かされている。 |