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第32回


高橋幸司

有限会社高橋幸司の事務所取締役社長。価値負けしない店・人づくりマン、中小企業診断士。お客様に「あなたの店がないと、私、困っちゃう」と言わせる、存在価値で負けない店づくりを志向。商売大好きオーナーの店だけを一所懸命コンサルティングするかたわら、社員教育、マーケティングセミナー、創業塾、各種講演、執筆、ラジオ出演もどんど んこなす。
1966年福島県生まれ。

「しぐさが残る」
 忘れられない店には人の好印象がつきものだ。人の好印象は、しぐさでつくられることが多い。エピソードを2つ紹介しよう。
 ひとつめは、ノースウエストの男性客室乗務員の話。場面は機内食後。ひげの彼は、「Coffee…」と、通路を巡回していた。やがて私の近くに来て目が合ったが、あいにくカップがいっぱいだったので「No thank you(けっこうです)」と断った。すると彼は、「Come on(なんだ、飲まないのか)」と、眉を八の字にしかめるしぐさを残して通り過ぎた。
しばらくすると、「Greentea…」と、今度は緑茶ポットを持ってやってきた。そのころには、私のカップも空き、コーヒーが飲みたくなっていた。しかし、先ほどコーヒーを断っていたので、少しためらって上目づかいに「コーヒー」と、カップを差し出してみた。するとひげの彼は、「*?>=※…」と、首を横に振りながら天井を仰ぐしぐさを残して通り過ぎていった。

 私の英語力では聞き取れなかったが、たぶん「なんだよ、さっきコーヒー断ったじゃないか」だろう。こちらもジョークだが、言葉が分からなくても、しぐさで十分伝わってきて楽しくなった。まもなく、斜め後ろに人の気配を感じ、振り返ると、ひげの彼が片方の眉をピクッとつりあげて立っていた。そして、下目づかいに私を見て、無言でトレーに乗ったコーヒーを差し出したのだ。
 もうひとつは、13年前にオーダースーツを作った時のこと。30代前半の男性店員は、初来店の私に2時間も親身に接遇してくれた。スーツの仕上がりは3週間後。一応引換券を受け取り帰宅した。

 約束の日が来て、店に向かうとずいぶん混んでいた。2週間前の彼も接客中。そこで、別な人に引換券を渡した。すると、接客中の彼が気づき、身体をこちらに向け、動きかけて戻り、頭を何度も下げて顔をしかめるしぐさをした。このしぐさから、接客中のお客様からはなれられなくてスミマセンという無言のメッセージが伝わってきて、こちらが恐縮したことを覚えている。
 ノースウエストのエピソードは、国内線では体験できないジョークだ。しかし、肝心の言葉は「Come on」しか聞き取れていない私だった。それなのに、しっかり記憶に残っているのは、ひげの彼が眉をつり上げたり、後方から差し出したしぐさのおかげだ。紳士服店の彼の場合も同じだ。言葉はなくても、しぐさで十分メッセージは伝わってきた。

 彼らのしぐさはマニュアルだったのか?いや、アドリブだったに違いない。しぐさにも参考書はある。事例はノンバーバルコミュニケーションの本に満載だ。ちなみに私が学生時代に読んだノンバーバルコミュニケーションの本は、「経営パフォーマンスの時代」。デートにも使える事例が豊富な1冊だった。
 マニュアルどおりの接遇教育が済んだら、しぐさにスポットを当てた接遇にチャレンジしてみてはどうか。アドリブたっぷりの接遇は必ずお客様の記憶に残るはず。